自治体 地域 インタビュー
“優しさを伝えるケア技法”を広める「ユマニチュード地域リーダー」 Vol.4 高橋香織さん

今回は、南福岡脳神経外科病院で介護福祉士として勤務され、2026年3月にユマニチュード®地域リーダー(第3期生)となった高橋香織さんに、ユマニチュードとの出会いや地域リーダーとしての想いについてお話を伺いました。
福祉の世界への入り口と、直面した壁
冠婚葬祭業界で13年間勤務されていた高橋さん。葬祭部門でご家族と介護職の方々の温かなやり取りを目にし、「素敵な仕事だな」と感じたことが、福祉の世界へ足を踏み入れるきっかけでした。
その後、デイサービスで介護士としてのキャリアをスタート。前職で培ったホスピタリティ精神を大切にしながら利用者と向き合っていましたが、認知症の方との関わりの中で大きな壁にぶつかります。何度も同じことを尋ねられたり、入浴を強く拒否されたりする場面に直面し、「もっと良い関わり方があるのではないか」と深く悩んでいたといいます。
(高橋さん)
「丁寧な説明を繰り返すべきなのか、拒否されたら何もできないのか、と自問自答していました。そんな時、看護師である夫から『ユマニチュードって知ってる?』と教えてもらったのが、すべての始まりでした。そして自分で調べるうちに『これが自分の求めていたものだ!』と感じたんです。ちょうど転職を考えていた時期でもあり、“人に優しい医療”という理念を掲げユマニチュードの実践を一つの柱として開院する現病院への入職を決意し、研修を終え実践者としての道を歩み始めました。」

ユマニチュードの技術を使ってコミュニケーションをとる高橋さん
病院で実感した「再会の約束」の力
ユマニチュードを学び、現在の病院で仲間と共に実践を重ねてきた高橋さん。
以前はオムツ交換の際も「交換に来ました」と業務的な声をかけていたそうですが、ユマニチュードを学んでからは、一人ひとりとの関係づくりを意識した関わりへと変化しました。
その効果を確信した忘れられない出来事があると言います。
(高橋さん)
「半年ほど前、酸素マスクをつけて息も絶え絶えな状態の患者さんのケアに入りました。退室時、何気なく『また会いにきますね』と声をかけた瞬間、患者さんが『ええっ!』と声を出し、嬉しそうに目を開けて微笑んでくださったんです。
それまでの声掛けには反応がなかったのに、『また会いにきます』というユマニチュードの5つのステップの一つ“再会の約束”には、これほど反応してくださるのかと衝撃を受けました。
それ以来、見つめる目、話す声と言葉、触れる手の一つひとつに『安心していただけますように』という思いを込めながら、ユマニチュードの5つのステップを大切にしています。」

ユマニチュードの5つのステップ“出会いの準備”としてノックを実践している高橋さん
プレイヤーから導き手へ――「伝える」という新しい役割
現場で実践を重ねる中で、高橋さんはある思いを抱くようになりました。
それは、入院中にユマニチュードで築いた良好な関係が退院後も続いてほしいという願いです。
(高橋さん)
「入院中はユマニチュードを通じて良い関係を築くことができます。でも退院して自宅や施設へ戻られた後はどうなるのだろうと考えるようになりました。」
また、面会に来られたご家族の姿を見て、「こう関わればもっと気持ちが伝わるのに」ともどかしく感じる場面も多かったといいます。しかし、介護や治療で精一杯のご家族へ、その場でアドバイスをすることは簡単ではありません。
(高橋さん)
「知っているのに伝えられないという罪悪感がずっとありました。だからこそ、介護が必要になる前の段階で、このユマニチュードの技術を知ってもらいたいと強く思うようになったんです。」
病院で得られた成功体験や感動を、病院の中だけの宝物にするのではなく、ご本人とご家族との絆に繋げていきたい。その想いが、地域リーダーとして地域へ活動の場を広げる決意へと繋がったそうです。
一人ひとりに合わせたケアを地域へ
地域リーダーになったばかりの高橋さんですが、講師として活動することにも大きなやりがいを感じています。
(高橋さん)
「講座では、それぞれの方が心に残ったことを持ち帰っていただければと思っています。全部を覚える必要はありません。その人の心に響いたことを大切にしてもらえたら嬉しいです。」
そのうえで、受講者に伝えたいことがあると語ります。
(高橋さん)
「ユマニチュードの『見る』『話す』『触れる』という技術は、常にケアをする人とケアを必要とする人の人間関係を中心にしています。実践していくと、『この方にはこの距離感がいい』『この方はしっかり触れて話すと安心される』と、一人ひとりに合った関わり方が見えてきます。
ケアの質や量を決めるのは、常に目の前の相手なんです。」
病院で培った経験を地域に伝えながら、一人でも多くの人に「優しさを伝える技術」を届けたい。
終始、笑顔で情熱をもって語ってくださった高橋さん。
その言葉の一つひとつからは、患者さんに寄り添い、真摯に向き合う介護福祉士としての誇りが伝わってきました。病院という枠を超え、地域のつながりを広げながら活動を続ける高橋さんの地域リーダーとしての挑戦は、これから多くの人へユマニチュードの素晴らしさを伝え、周囲に温かな循環を生み出していくことでしょう。