インタビュー
「施設ではなく、村を創る」――レユニオン島で展開される、ユマニチュードに着想を得た新プロジェクト「ヴィル・アージュ(Ville Âge)」

(左)シリル氏 (右)ヴィル・アージュのユマニチュード推進責任者 ジョエル氏
今回は10月に開催される「国境なきユマニチュード国際会議」の登壇者であるシリル・アルボー氏にインタビューを実施しました。
フランス海外県レユニオン島で進められている高齢者住宅プロジェクト「ヴィル・アージュ(Ville Âge)」。その創設者兼ディレクターを務めるシリル・アルボー氏(以下、シリル氏)に、プロジェクト誕生の背景やユマニチュードへの想い、そして未来へのビジョンについて伺いました。高齢者施設でも病院でもない新しいコミュニティづくりへの挑戦に迫ります。
フランス海外県レユニオン島が直面する高齢化の課題
――まず、プロジェクトの舞台であるレユニオン島の現状と課題を教えてください。
インド洋に浮かぶフランスの海外県レユニオン島は、人口約100万人の島で、現在、急速な高齢化の時代を迎えています。今後、75歳以上の人口は大幅に増加すると予測されている一方で、高齢者介護施設(EHPAD)はすでに満床状態となっており、多くの方が入所待機を余儀なくされています。
そのため、自宅での生活が難しくなった方々を支える選択肢が十分に整っているとは言えません。自宅と施設の間を埋める居住環境が不足していることが、レユニオン島における大きな課題となっています。
私は長年、高齢者施設の運営に携わる中で、こうした課題を解決する新しい生活環境の必要性を感じてきました。
さらに現在の高齢者施設は、多額の建設費と維持費が必要な構造になっており、利用者や家族の負担も大きくなりがちです。そこで私たちは、建物そのものではなく、本当に重要な「日々のケアの質」や「スタッフの充実」により多くの資源を投入できる仕組みを作りたいと考えました。
ユマニチュードとの出会い、そして「施設ではなく村を創る」という夢へ
――なぜ新たなプロジェクトを立ち上げようと思われたのでしょうか。
私は高齢者福祉および医療福祉の分野で20年以上にわたり活動してきました。
また、父が施設長、母がアクティビティコーディネーターを務める高齢者介護施設の中で育ったため、幼い頃から、高齢者をケアする環境は、私にとって日常生活の一部でした。
スイス出身ですが、フランス本土で学んでいた学生時代、授業で上映されたドキュメンタリーを通じてユマニチュードに出会い、大きな感銘を受けました。
その後、レユニオン島に赴任した際に、ユマニチュードをロゼット・マレスコッティ氏と共に創設したイヴ・ジネスト氏に強く働きかけ、私たちのもとで研修を実施していただきました。
研修中、ジネスト氏から「ここのディレクターは誰ですか」と問われ、私が手を挙げると、日常的な車椅子の使用など、組織の都合を優先したケアのあり方が、ときに人の能力を奪い、「依存を生み出す工場」になりかねないことを示されたのです。私はその日、高齢者を支えるための選択が、結果として自律を失わせてしまう可能性があることに気づかされ、大きな衝撃を受けました。それ以来、私はディレクターとして、組織の効率や財務的な事情よりも「人々の幸福、自律性、自由」を最優先に考えて意思決定を行うようになりました。
これは20年以上前の出来事ですが、私たちのケアのあり方を根本から変える経験となったのです。
その後も島内でユマニチュードの普及に取り組み、レユニオン島最大の高齢者および家族介護者向け施設・サービスネットワークの運営責任者として活動する傍ら、複数の高齢者施設での導入を進めるとともに、ユマニチュード認証の取得支援にも携わりました。ユマニチュードによって現場のケアは大きく変わりましたが、一方で、既存の施設という枠組みの中では、実現できることに限界があると感じるようにもなったのです。
ユマニチュードは、「人を中心に考える」ということを教えてくれました。これは、その人の能力や意思、生活のリズムを尊重するという考え方です。
私は次第に、「この考え方をケアの現場だけでなく、住まいやコミュニティそのものに広げられないだろうか」と考えるようになりました。
私には一つの「夢」があります。
それは、施設という枠を超え、ユマニチュードの理念に基づいた地域社会(村)を創り出すということです。高齢になっても、認知症になっても、人は社会の一員であり続けたいと願っています。だからこそ、今ある病院や施設ではなく、人々の自由や尊厳が守られ、当たり前の社会生活を営み続けることができる場所をつくりたいと思いました。その想いから生まれた新しいコミュニティが「ヴィル・アージュ(Ville Âge)」です。
自宅でも施設でもない、新しい暮らしの選択肢
――シリル氏が目指す「ヴィル・アージュ」とは、具体的にどのような居住環境なのでしょうか。
コンセプトは、「施設ではなく、村である」ということです。ヴィル・アージュは、主に自立または半自立の高齢者を対象とし、軽度から中程度の認知障害のある方々のための専用エリアも設けている、これまでにない新しい「中間的な住まい」を目指しています。
住まいは、バリアフリー設備を備えた約45㎡の「個人用ロッジ」で、夫婦で暮らすことも可能です。介護や医療についても、地域の医療職や看護職と連携しながら、自宅に近い形でサービスを受けられ、安全性と自立した生活を両立させる仕組みを構想しています。
また、村の中心には、カフェやレストラン、食料品店、美容室、多目的ホールや菜園などを配置します。日常生活の中で自然な交流が生まれる環境を整備する計画です。
さらに、村の中にある様々な施設は、地域の住民にも開放します。高齢者だけが孤立した空間にはせず、子どもから高齢者まで、世代を超えた日常的な交流が生まれる居住環境の実現を目指しています。

ユマニチュードを「ケア」から「コミュニティ」へ
――ヴィル・アージュの中で、ユマニチュードはどのような役割を果たしているのでしょうか。
ユマニチュードは単なるケア技法ではありません。
ヴィル・アージュでは、建築、運営、地域との関係づくり、そのすべてにユマニチュードの考え方を反映しようとしています。
その根底にあるのは、「人に環境への適応を求めるのではなく、環境そのものを人に合わせて設計する」という考え方です。
また、住民自身がコミュニティ運営に参加できる仕組みとして、「村会議」の構想も掲げています。住民が役割や責任を持ちながら暮らせる環境づくりはユマニチュードの理念にも通じています。
レユニオン島から世界へ
――10月の国際会議では、皆さんへどのようなメッセージを届けたいですか?
現在、第1号村の整備に向けて、土地、資金、行政上の条件整備を進めており、開設時期は、これらの準備が順調に進むことを前提に決定される予定です。
ヴィル・アージュは、村づくりプロジェクトに加え、認知機能障害のある人々への支援に関する国際協力も発展させていきたいと考えています。マダガスカルの高齢者施設やモーリシャスの在宅ケア支援団体との連携を通じて、ユマニチュードの理念に基づき、知識や実践経験を共有しながら、介護者や支援者を支えていきたいと考えています。
ユマニチュードの理念に基づくコミュニティを国境を越えて広げていき、インフラや文化の異なる地域でも誰もが尊厳を持って暮らせる仕組みを届けていきたいです。
国際会議では、これからのコミュニティづくりに向けた私たちの挑戦を、皆さんと共有できることを心から楽しみにしています。
【編集後記】
シリル氏は最後に、次のような言葉を語りました。
「人を守ることが、その人の自由を奪うことになってはならない。」
この言葉は、ヴィル・アージュの理念そのものを表しています。
高齢になっても、認知症になっても、一人の市民として地域で暮らし続ける。守られる存在としてではなく、自ら選び、参加し、誰かとつながりながら生きる。その実現に向けた挑戦が、レユニオン島から始まろうとしています。